心を豊かにする着眼点

フランスに対するイメージ

「フランス」というワードを出すとだいたい「おフランス」と、高級志向のイメージで捉える反応が多い。

世界に誇れるフランス料理があり、有名ブランドも多くあり、パリコレを代表とした流行とファッションの発信地。なんだか贅沢な暮らしぶりを想像しがちだ。

私も渡仏最初の頃、道を歩けば高級ブランドのショーウィンドーがあり、至る所に豪華な建物が立ち並ぶ。そしてやたらとバカンスでの旅行、演劇やコンサートの話をするフランス人に、「ここは私の住む世界じゃない」と落ち込む日もあった。

 

しかし、渡仏して9年、実際に感じる庶民の暮らしはとても堅実で質素だ。

 

周りを見渡してみると、日本の若者のように流行の服を身にまとった人は少なく、ネイルサロンに通う人もあまり見かけない。インスタ栄えのするお洒落スポットに友達とお出掛けなんて聞いたことも無く、友達同時でランチや飲みに出かけるわけでもない。キャバクラも無ければ、カラオケ等の娯楽施設もほぼ無いに等しい。

 

実際、OECD(経済協力開発機構)調べによると、2018年のフランス人の平均手取り年収約367万円。これに対し日本の平均手取り年収は452万円。日本の方が85万円も高い。

フランス流の楽しみ方

フランスには「art de vivre(アート・ドゥ・ヴィーヴル)」という生活概念がある。

ARTはアート、VIVREは生きる・暮らすという意味で、「日常生活をアートに生きる」と私は解釈していて、「美しく豊かに生きる喜び」としてフランスの文化に根付いている。

 

長男の学校に、毎日ピシっとアイロンのかかったシャツを着ている感じの良い男の子がいる。

その母親と話をすると、どうやらお気に入りの3枚のシャツを着まわしているらしい。学校から帰ってきたらその日のうちにシャツを洗い、すぐアイロンをする。

そして毎朝、綺麗にアイロンのかかったシャツから好みのやつを自分で選んで着ていくらしい。

 

洗濯をしない日があっても良いようにと、妥協した子ども服を多数買い、干した後に畳む時間を割かずにソファーに置かれシワにさせてしまう私とは違う。

この子の毎朝の気持ちを想像しただけで、こちらまで身が引き締まる。

 

近所でいつもすれ違う70代ぐらいのマダム。少しメキシカンスタイルで、赤いハットをかぶり颯爽と歩いている。

仲良くなって話を聞くと、お気に入りの大事なハットと革靴をお直ししながら十数年近く共にしているらしい。

そのマダムは毎回マルシェにはカゴを持参する。マルシェで購入した食材がそのカゴから飛び出している。

肩にかけるタイプではないので重くないかと尋ねると、それだと便利だけと味気ないからね。と笑顔でウインクした。

少し不便でも、お気に入りのカゴバッグで買い物する方を選ぶ。

背筋がビシっと伸びた白髪の後ろ姿と、カゴから飛び出た長ネギがやたらと絵になる。

フランス人が大好きなフリーマーケットも、実家の倉庫に眠っていたような骨董品や家具、洋服、絵画、食器から、一体誰がそんなもの買うんだと思うような布の端切れ、コーヒーカップの受け皿だけ、ジャムの空き瓶、得体の知れない小瓶や小物などが多々有る。

それを目当てに来た客も「自分が価値がある」と認めたものを購入し、時には家具の色を塗り替え、時にはいすの革を張替え自分好みにし大切に使う。

 

自分の心が豊かになるように、自分の周りを「工夫を施した好き」で固める。

リサイクルやリユースといった表現を流行で使うわけではなく、昔から培われてきたArt de vivreの精神で、日常を楽しく生きる知恵、生き方の流儀がそこに存在する。

「自分にとって価値がある」と思ったものをケアしながら大切に使う。実に清々しい。

 

フランス人の靴下は基本的に穴があいている。

穴の開いた靴下でもバカンスには出掛ける。

2日続けて同じ服を着ることもよくある話。

それに対して誰も何も気に留めないし、彼らの価値はそこではないらしい。

 

色々な宗教があり、様々な人種が居て、それだけの価値観が混在していると、もはや自分の常識は誰かの非常識になる。

その中で、自分がどう生きるかを突き詰めていくと、誰かの評価も気にならなくなり、「自分」を生きることが出来る。

そういう生き方が上手なフランス。

豊かさとは何だろう。

 

効率が悪くても、自分なりの等身大の心の満たし方を知っていて、美しく生きようとするそのアートな生き方が、私にはフランスらしさとして映る。

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